@黒歴史其のⅤ

Aは特異な性格である上、妙な癖を持っていた。俺は気付くのに1ヶ月は要しただろうか。それは爪と指の間に出来る逆剥けのようなものを歯で噛み千切るというものであった。隣をチラッと見ると、そんなことをやっていることがあった。そこにオトメの恥じらいというものは微塵も感じられなかった。こんな人もいるんだなと俺はテキトーに受け流していたが、クラスの連中から見るとその行為はAは奇妙な性格の人間だという考えに拍車をかけていったようである。Aは些細なことで逆鱗に触れるというのは前にも触れたことであるが、逆鱗に触れても地団太を踏んだり、行動が荒っぽくなるという程度のもので、さほど怖くなかった。周りの連中はそういう奇行を見て、喜んでいた。ある意味イジメであるな。そしてさらに逆鱗に触れるというスパイラルの図式だった。
給食委員の話に戻そう。あるとき、連絡の不徹底で給食当番の交代を知らせることが出来ず、誰が当番だ的な空気が流れた。なんとかわたくしは頭を下げて、「すまぬが、やってはくれぬか」と言って、なんとかOKを取った。Aはというと1人で食缶*1を全て用意して、1人でなんちゃかとやっていた。俺はまた「ここまでやるのか?」頭の中で疑問符がぐるぐっまわー(以下略)*2そのとき担任教師が教室に戻ってきて、俺に聞いてきた。
「なんでAだけがあんなに働いとんねん」
「なんで関西弁やねん」という返答はしなかった。実際、もう当番の連中は稼動していたが、俺は口ごもるしかなかった。先生、俺にもあいつの思考回路は理解できません。どんなに勉学ができても心理学は専攻してませんから、残念。正直、Aという糸の切れた凧、手綱の無い馬、ブレーキの壊れた自転車を制御することはできなかった。俺は心の中で「俺はあいつの保護者ではない」と言い切った。
委員の仕事は程よくこなした。「1人でこなしてみせる」とは思っていたが、案外スムーズに出来た。相変わらずAの言うことの意味を拾うのに苦労したが、テキトーに聞き流して、1人で書類の作成・通信の作成等、委員の仕事は進めた。急務があってAにやってもらったこともあったが、誤植だらけだった。よく印刷を許可したものだ。任期中に事件が起きた。給食当番のエプロンが1人分、綺麗に消えていた。原因はまだ理解できていない。俺はBにギャグで「この責任を真摯に受け止め、委員の辞任という形で責任を取りたいと存じます」と言った。結局エプロン代はクラス全員が50円ずつ出すという弁償の形で決着した。
2学期。体育祭の練習があった。いろいろあった。俺は頭を冷やすために仮病を使って休んだこともあった。天井を見ながら、物思いに耽った。
体育祭だ。最後の種目の前に得点板がいそいそと外された。俺はもう3団中で3位決定を理解していた。それまでの得点と最終競技の各団の成績から、総合順位を割り出すことなど、小学生でも出来た。そして閉会式での成績発表。他の連中は逆転を祈っていたようだ。こいつら揃ってケツの青いガキだ。俺は内心ヘラヘラしていた。別に全力を出さなかったからとかそういうわけではないが。なぜかまあ負けるべくして負けたことにヘラヘラしていた。他の連中を見て、ギョッとした。涙目の連中が結構居た。こんなときにヘラヘラしてる俺の方がケツの青いガキだったかな?俺のクラスは凄い成績だった。学級対抗リレーは7クラス中7位。学級対抗種目は7クラス中7位。クラスが編入された黄団は3つの団のうち、競技・応援ともに銅メダル。輝かしい成績であった。
ついに俺はトドメを刺された。英語の授業で2人で組んで、英語の朗読+訳の朗読をやることになった。当然というか物の流れというかAとペアを組んだ。いや、組まされた。訳は簡単だった。今なら、ソラで訳せるだろう。其の程度の英文だった。だが勿論というかお約束というか物事は俺の考えるようには進まなかった。俺たちはロクに打ち合わせをしなかった。したところで無駄なことは理解してた。俺は1人でやるつもりだった。打ち合わせ無しで本番など、無茶であった。Aの訳は結構無茶苦茶だった。当然、アポ無しなので歯車がかみ合わず、あっという間のエンド。俺は訳を9割5分方、OKだったが、んなことでカヴァーできる内容でもなかった。英語教師が「訳等、間違ったところが多かったので、点数も低いですよ」俺の中で血が逆流した。こんな、こんな、こんなことで俺の成績が落ちるだと。これから高校受験を控えていて、学力はそこそこあるのに、こんなのの所為で成績が下がる…、俺はこんなところで生き埋めになるのか、冗談じゃない。俺はこんなところで終わるような下賎な民ではない。俺には少なからず未来がある。こんな人生お先真っ暗人間と心中だと…。フッ、我もなめられたものよと心で呟いた。

待ちに待った後期がやってきた。給食委員ともAともおさらば、俺はこれから全力投球で成績を立て直す決意を固めた。なりたい職にも就けた。新生活を始めた大学生の気分で、後期を迎えた。Aは「図書委員になったら。わたしの班に編入したげる☆」という班長とか言う権力者の言葉に心が揺らぎ、図書委員になった。俺は権力者の口車に踊らされていたことに気付いてはいた。こんどこそ、正真正銘のおさらばだ。新天地で上手くやれよ、おれは自然体でできるから。そして班の発表。なんともクソッタレな儀式だ。権力者が密室で決めたことに、従わされるんだからな。俺の名はあった。新天地での活躍を心で誓った。そしてその下にAのネームプレートがあった。俺はまだ折り返し地点に立ったばかりだった。 自分史@黒歴史 ハコビヤよ、永久に 〜完〜

わずかばかりの文才で行き当たりばったりで書き綴ったショートストーリー、いかがでしたか。感想よろしく。

*1:給食の入ってる鉄製のトレーとか鍋

*2:分からない人のために書いておく。この曲が元ネタだ。